期待外れのパートナー     

 集団の中に属する割に、常に独りだった。自分1人が浮いているような、それを望んでいる自分も居るような。
「肩を並べる相手が居ないのは不便だ…」
「ワガママだね、シオン」
「保護者なら察しろ。俺、自分より優秀なヤツに出会ってみたいぜ」
 望めば何でもできる、万能の才能――それは人生をつまらなくさせる。シオンは自分の能力を嫌いではなかったが、不満はあった。贅沢な悩みだ。
セントゥルに行くかい?」
「何だ、それ?」
「学校だよ。今更かもしれないが、年齢的にも学校に通っていておかしくはないし、環境が変れば少しは刺激になるかもよ?」
 それもそうだと納得して、セントゥル学園の受験を決めた。予想では、主席で入学するはずだった――。

「新入生代表、ルーエ=ファリーニ」

 主席での入学を果たしたのは天使のような美しい少年だった。シオンはふと思った。
(ああいう顔のヤツって頭の中身はバカだと思ってたけど…例外も居るもんだな)

 セントゥル学園は全寮制だ。入学式が終わったら、すぐに入寮の準備をしなければならない。寮に着いて、指定された部屋に入ると天使が居た。
「やぁ、僕はルーエ。これからヨロシクね」
「知ってる。主席入学おめでとう、天使ちゃん」
「…天使、ね。『アルザム』のシオンの名前を聞いて、少しは期待したのに」
「お前…!」
「そんな陳腐な形容でしか僕を表現できないなんて、天才が聞いて呆れる」
 天使はその顔に似合わない毒を次々に吐いた。
「お前、やっぱ綺麗だな」
「はぁ?」
「毒づいてる方が冴え冴えしてて綺麗だ。それと、期待っていうのは裏切られた方が面白いだろ?先が見える事ほど面白くない事はないぜ?」
 シオンはニヤリと笑った。
「とりあえず、お前は面白い」
「…そう。そういえば君、随分流暢にシェルリードを話すけど、デュリスの出身?」
「いいや。お前が綺麗なシェルリードで囀るから、それに倣っただけ」
「倣う?」
「これが俺の天才たる所以です。出身なんて『アルザム』に所属してたらどこかなんてイチイチ覚えてらんねぇ」
 ルーエは光が零れ落ちるかのような笑みを見せた。
裏の裏は表。君とは友達になれそうだ」
「なれそう、じゃなくて――なろうぜ?」
「じゃあ、遠慮なく…」
 二人は握手を交わす。

 そして――。

「ルーエ、今度の進級式で提案しようと思うんだけど、どう思う?」
「《エンブレム》の空位問題について?」
「そう。問題はシャーヤの兄貴だ。他の先生は目くじら立てたりする事はねぇけど、あの野郎は絶対反対してくるじゃん?シャーヤはそういう時、俺の味方してくんねぇからさ〜」
「…僕がそれに乗ったら、一蹴はできなくなるね。ただ、エセルは反対すると思うよ」
「エセル…な。じゃあ、《スペード》は全員一致で反対か…」
 あのカリスマ王子の側仕えの騎士が主に逆らう事は有り得ない。
「…ちょうどここに『チューベ・ローズ』『苺ショート』『キャラメル・シフォン』があるんだけど…ベルをお茶会に招待してみたらどうかな?」
 ルーエは手に下げた紙袋を見せる。
「そうか、実は俺も『アンジェラ』『ショコラ・ノワール』を用意してたんだ」
「じゃあ、お茶会が楽しくなりそうだね♪」

 二人は一緒に歩いている。同じ道を、いつか分岐点が見えるまで。

by氷高颯矢

ルーエとシオンの話でした。こっそりやってる『100のお題』の『相棒』というテーマで書きました。
ルーエとシオンは何故か親密そうに思えたので、これは親友設定だわ!と勝手に決定。
ヒューとも仲良いはずだけど、この二人よりエセルに付いていっちゃうので、
やっぱり同級生で、同等の立場で友情ってなるとルーエとシオンがしっくりくるよね。